祖父は能面のような顔で言います。
「なるようにしかならん。諦あきらめろ」
「……あははははー」
わたしはゆっくりとソファに沈みこみます。
仮面氏の退室により、扉が開け放たれたままの事務所を、妙に紙っぽい蝶ちようがひらひらと優雅に横切っていきました。
妖精さんメモ【丸まり】
妖精さんはてきにおそわれたり大きな音などにおどろいたりすると、体を丸めてボール状になり、身を守ります。これを丸まりといいます。
とてもすばやい妖精さんですが、ボールになっているときなら簡単にゲットできますよ。
丸まっているときは意識もなく、冬眠に近い状たいになっています。
数分ほどでもとに戻り、活どうを再開します。ただそのときには、自分がどうして丸まったのか、きおくを失っていることが多いようです。とってもふしぎ!
『四月期報告』
1.前半期
クスノキの里さと自治行政区では、新規職員の増員にともない、妖精人類(以下、妖精)とヒト人類との交流を試みた。
当初、広域に生活圏を持ち定住しない妖精との対話は、困難を極めることが予想された。
そこで職員考案による新規採集法を実施。結果として四人の妖精との接触に成功した。
この際、接触は極めて平和的かつ合法的に行われ、まったく問題はなかった。
妖精四人にはそれぞれ身体的特徴が認められたものの、多数の個体に混ざった場合、必ずしも決定的な判別材料とはならない。
そこで職員は四人それぞれの命名を提案した。この提案は、個体名を持つ習慣がなく、種族的好奇心に富む彼らに快こころよく受け入れられた。
四人は「きゃっぷ」「なかた」「ちくわ」「さー・くりすとふぁー・まくふぁーれん」と命名され、対話を円滑に進めることが可能となった(図版?参照)。
その後、離り散さん期きにあった妖精の活動状態が集合期へと移行した。
近きん隣りん域いきに暮らしていた妖精の大半が集まったものと見られ、人口は稠ちゆう密みつ化かした。個体数の集合により、文化ならびに科学水準の異常活性が認められるようになった。
この時には、一晩で都市型の巨大遊具が作られるなど、かなり大規模な集合であることがうかがえる。
これらの変化を職員は注意深く、節度をもって観察した。
時には妖精との遊ゆう戯ぎに誘さそわれることもあり、地域交流は考え得る限り最大限順調に行われていて、まったく問題はなかった。
既存の研究報告が示している通り、集合期は比較的短い期間(五?七日)で離散期へ移り変わる。これは妖精という種族特有の、自らの創造物に対する持続的関心の少なさに起因する数字である。平均一週間という数字は、当クスノキの里さとの過去記録と一致するものであり、おおむね信しん頼らいに足るデータだと思われる。
しかし今回は、前例にない期間での移行が起こり、おおよそ三日で妖精は離散していくことになってしまった。この原因については目もつ下か調査中ではあるが、解決の見通しは立っていない。職員の対応に不備があった可能性は否定できないが、我々がいまだ知らない原因によるものかもしれず、早計は避さけるべきであろう。
集合期は文化水準が著いちじるしく上昇しているため、ヒト社会からの過度の影えい響きようが起こらないように留意しなければならない。特に重犯罪などに代表されるヒト人類特有の悪あく弊へいは、より高次の技術体系を持つ妖精社会にとっては極めて有害であるとされる。過度の干渉は調停理事会の理念に反するばかりか、調停業務自体の遂すい行こうを困難にするものである。
そのような観点から考察しても、担当職員の認識に不備があったという事実はなく、妖精たちにとって影響力が強すぎると予測される宗教概がい念ねんなどの伝でん播ぱもなく、実にまったく本当に問題はなかった。
2.後半期
前半期に引き続き、後半期にも集合離散の転変が確認された。
クスノキの里から発する交易道七号線四キロの地点にある、高層都市遺跡を切り開く形で作られた人工的なサバンナが発見された。
職員による調査の結果、多数の妖精がここで擬ぎ似じ的てき原始生活を営いとなんでいることが判明。またこの集団には「なかた」「ちくわ」両氏の姿も見られた。
その生活様式は「人類のあけぼの」を模しているように見え、妖精特有の行動である「ヒト模も倣ほう」であると推測できる。
またサバンナには、恐竜(人類と恐竜が同時期に存在したという事実はないが、これは妖精的な諧かい謔ぎやくの類たぐいと見るべきである)を模倣したペーパークラフト(図版?参照)が多数配置されていた。
ゴム動力によって自発運動するこれらのペーパークラフトは、単純なようでいて極めて複雑な構造をしており、妖精たちの持つ技術がいかに並みはずれているかを再確認させるに足るものだった。
これらは、友好物資(菓子類)の贈与に赴おもむいた職員自らが目もく撃げきした。なおこの接触によって妖精に危害が及ぶなどのアクシデントは一切なく、まったく問題はなかった。
その後、ペーパークラフトには貴重な菓子類を体内に隠す性質があることが判明し、妖精たちに狩しゆ猟りようの概がい念ねんが生じるようになった。ペーパークラフトは自律的に活動しているため、これを停止させて菓子を入手するには、物理的に破は壊かいするしかなかったのである。職員によって狩猟という暴力的な風習が教きよう唆さされたわけでは断じてなく、まったく全然これっぽっちも問題はなかった。
またその後の狩猟生活もごっこ遊びの域を出ることはなく、この点で特に憂ゆう慮りよすべき部分はないと思われる。離り散さん期きへの移行を見届け、視察を終えた。
なおペーパークラフトは相当数がサバンナに解き放されていたようで、それらの一部は狩猟圧の高まりを生き延びていまだ生存している。
一部廃はい墟きよを越えて活動域を広げた個体もあったはずだが、危険性は一切なく、紙であることも考えれば遠からず機能は停止すると思われる。
だがもしかするとペーパークラフトは、活動性を維持するための機能を備えているかもしれず、そのため長期にわたって目撃されたり淘とう汰たされたり自然選択されたり変異したり多様化したりするようなろくでもないことが今後さらにあるかもしれないが、まったく問題なく収束することを内政非干渉の見地に立つ本件とは直接的には無関係な一調ちよう停てい官かんとしては切に祈りたい。
あとがき
はじめまして、田中ロミオです。
ご存じない方も多いかと思います。
あなたのすこやかなる明日のため、このペンネームをインターネットで検索しないようにしてください。特に平成生まれの方が私のペンネームを検索することは法律で今にも禁じられそうです。ご注意ください。
簡単に自己紹介をするなら、私は「ウィンドウズ用アプリケーションソフトに使用されるテキスト・データの作成」を生なり業わいとする者ということになります。
いわゆる貿易商です。
それでいいじゃないですか。よろしくお願いしますよ。
この小説について
とあるご縁でお会いしたガガガ編集部の面々は、たいへん濃い方々でした。
彼らが求める小説は、きっととんがった内容ばかりになるじゃろう。
と広島弁で予測した私は、あえてひとりだけキレイな作風でダークホースしようとして……軽く失敗して横道スピンしてできたのがこの小説です。
この作法をスピンアウトと言います(?うそです)。
当初の予定では、児童文学っぽいタッチで描かれる、短編連作形式の、やろうと思えば金きん太た郎ろう飴あめ的てきストーリーで何巻でも書けてしまう、張り巡らされた伏線とか緻ち密みつな構成とか魅み力りよくあふれる登場人物とか冴さえ渡る推理とか一切必要ない、実にリラックスしたノベルとなり、「みんなー、ぼくの感想文書いてねー」とばかりに小学校の図書室なんかに並べられる予定でした。
もしそのようなものとして完成したなら、私はダークホース行為によって実力以上に印税様になることだってできた気がします。あの世界的魔ま法ほう学園小説の作者のように。
残念ながら非印税様の線が濃厚となってきている今日この頃ごろですが、裏を返せば、私はどこまでも自由だということです。
だからまあ、これはこれでいいんじゃないかなと思うのです。
タイトルについて
「さおだけ屋ってなんで潰つぶれないんですかね? メソッド」に基づく、内容とはそんな関係ないんだけど売れそうなタイトルづくりを目指しました。
カリスマについて
ガガガ文庫のウェブサイトなどでは、カリスマという惹じやつ句くが用いられていることを発見しました。いかにも私はとんだカリスマ野郎です。
それは呼吸をするように人や無人機械から借りてすませるがゆえのカリスマであり、知人が私に対し「ユーって本当にカリスマだよね」と告げる時、表情がこの上なく苦々しいところからも明らかです。人生思い返せば、確かに借りすぎたきらいはあるかもしれません。いろいろなものを借りてまいりました。借りて借りて借りまくりました。そして時には返しました。どうしても返せない時には、別のところから借りて返しました。あの画期的な擬ぎ似じ永久機関(バイシクル機関)の導きに従って。そのカリスマっぷりには親の目にも涙が浮かぶほどですが、しかしまあ、生々しいお金の話はこのくらいにしておきますね。
平成生まれの諸君は、こんな人生にならないよう気をつけていただきたい。
小学館様について
自分がかの小学館様と仕事をしているという事実に愕がく然ぜんとします。
小学館様といえば、コロコロ、小学一?四年生、小一教育技術……まばゆい配本が冴さえ渡るブックメーカーのオーソリティーです。
大手も大手、超大手であり、長いものに巻かれるぞー、というポジティブな気分にさせてくれます。この本だってもしかすると、小中学生……いや、小中学生様に読まれたりすることもあるのでは?
それを考えると挙動不審になりそうです。
小学生様にも読まれる物書きは、光の王国に住んでいると考えます。
できるものなら私だってビー玉やベーゴマやミニカーレースで巨悪を倒す少年の話が書きたい。若い頃ころに懐いだいていた、そんなピュアな気持ちを思い出してしまう今日この頃です。
今後について
最近、本業のスケジュールがダイナミックにムーブしていろいろ大変だったんです。
今回たまたまピンポイントで時間が空いたのですが、突然舞い降りた自由時間の天使が私に「せっかくの休み、口半開きでぼんやりするくらいなら、小説でも書いてゆっくりしたらどうなのサ?」とツンデレ気味に囁ささやくので、頑張って書いてみました。そうしたら普通に全時間仕事をすることになりました。だまされたぜ。
一応、この本には続きがあります。正確には、続けられます。いくらでも。だから伏線のいくつかも胸を張って未回収なんですよー(書かずにおけば波風立たない裏事情)。
機会があれば、またお会いできるかも知れません。
その時は小学校図書室目指して頑張りたいと思いますので、好意的なコメントを書きつづったアンケートハガキをいただけますようよろしくお願い申しあげます。
もちろん手厳しい批判意見もテレパシーにてお受けいたしております。それでは。
【編集部・注】初出 二〇〇七年五月。一部修正 二〇一一年十一月。
田中ロミオ
Romeo Tanaka
1973年生まれ。PCゲーム中心に活動するフリーランスライター。小説の仕事は今回が初。メール返信の遅さと運の悪さに定評がある。
小学館eBooks
人類は衰退しました 1
2012年10月1日 電子書籍版発行
著 者 田中ロミオ
発行人 佐上靖之
編集人 野村敦司
編 集 具志堅勲
発行所 株式会社 小学館
〒101‐8001
東京都千代田区一ツ橋2‐3‐1
s-ebook@shogakukan.co.jp
底 本 2011年11月23日 初版第1刷発行
?ROMEO TANAKA 2012 ISBN978-4-09-451308-0
※ご注意
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